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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)152号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二 そこで、取消事由について検討する。

1 一致点の認定について

審決が、本願発明と引用発明との一致点として、「反転した原稿シートを再度露光部へ送り出し得る貯容部へシート原稿の先端から排出するようにした」点を挙げていることについては、当事者間に争いがない。

原告は、本願発明における「貯容」と引用例における「貯容」とは意味・内容が異なるものであり、両者の実際の機能を考慮したとき「貯容部」を同一のものとすることはできない旨主張する。

しかしながら、審決は、右認定に続いて、相違点(一)として、「反転したシート原稿を貯容する貯容部が、本願発明は積み重ねられた原稿シートを下方のものから取出せる上方開放型の原稿貯容台であるのに対して引用例に記載されたものはスイツチバツク路である点」を挙げている上、本願発明の明細書に、引用例記載のスイツチバツク路を「貯容部」とする説明があることは、原告の自認するところである。

そうであれば、審決は、本願発明における「貯容部」と引用例における「貯容部」との意味・内容及び両者の実際の機能の相違は、相違点(一)として認定しており、審決が、「反転した原稿シートを再度露光部へ送り出し得る貯容部へシート原稿の先端から排出するようにした」と認定した「貯容部」は、本願発明の原稿貯容台と、原告が自ら「貯容部」であるとしたスイツチバツク路とを総称して、「貯容部」と表現したにすぎず、技術的意義の同一性を述べたものではないことは明らかであるから、原告のこの点に関する主張は理由がない。

2 相違点(一)に係わる本願発明の構成は当業者が格別困難なくなしえたとした認定について

(一) 成立に争いのない甲第二ないし第四号証によれば、本願発明は、

(1) 原稿貯容台から順次送り出されて露光部へ送られ一方の画に露光が行われたシート原稿は搬送装置により途中表裏反転された後前記原稿貯容台の上部、つまり、原稿貯容台から未だ送り出されていない原稿を含めて、積層された原稿上へ戻され、該原稿貯容台上にある原稿の上に順次積層され、次いで、この積層されている順に送り出されるので、一枚のシート原稿につきそれを前記原稿貯容台より二回ずつ露光部へ送出すれば両面シート原稿の表裏両面露光が自動的に行われ、

(2) 多数枚の両面シート原稿の複写に際し、それらの原稿の一方の面に相当する一頁、三頁と奇数頁の原稿の複写を先に連続して行い、次いでそれらの原稿の他方の面に相当する二頁、四頁と偶数頁の原稿の複写を行うことができ、

(3) 表裏反転されたシート原稿を貯容するための専用の原稿貯容台、すなわち従来の装置における第二の原稿貯容台を必要としない、

という効果を奏するものであると認められる。

(二) 一方、原本の存在と成立に争いのない甲第五号証によれば、引用発明は、一方の面に露光を行われたシート原稿は、搬送装置により、途中表裏反転された後、スイツチバツク路に送られ、方向転換されて、直ちに再度露光部に送られ、露光されることによつて、両面シート原稿の表裏両面露光が行われた後排出路を通つて排出されるものであり、積み重ねられたシート原稿を複写する場合には、原稿の一方の面を露光した後、スイツチバツク路を介して他方の面を露光して排出し、これについで同様の順序で次のシート原稿の一方の面及び他方の面の露光を行い、更に、次のシート原稿の一方の面及び他方の面の露光を行うという、露光部に対するシート原稿の送り出し作用を奏するものであると認められる。

(三) そこで、本願発明と引用発明を比較すると、シート原稿の両面複写を連続して行う場合に、本願発明は、一台の原稿貯容台に積層された両面シート原稿の一方の面のみが順次露光された後、表裏反転されて右原稿貯容台に再び積層され、他方の面のみが順次露光されるものであるのに対し、引用発明は、原稿貯容台に積層された両面シート原稿は、まず一枚のシート原稿の一方の面が露光されると直ちに表裏反転された後、スイツチバツク路を介して他方の面を露光し、これについで次のシート原稿の一方の面及び他方の面の露光を行うものであり、引用発明には、両面シート原稿の一方の面のみを順次露光するという技術思想もなければ、一方の面の露光を終えて表裏反転されたシート原稿を同一の原稿貯容台に積層して貯容する技術思想もなく、その示唆もない。

したがつて、本願発明は本願発明の要旨記載の構成によつて前記作用効果を奏するものであり、引用例の明細書には、本願発明の構成及びその作用効果についての記載もなければ、その示唆もないといわなければならない。

(四) 被告は、本願発明の構成は両面に画像を有する原稿シートの積重ね技術に関する慣用技術を周知の貯容台に採用したにとどまるものであり、当業者が格別困難なくなし得たものである旨主張し、審決も、積み重ねたシート紙の一番下あるいは一番上から取り出したシート紙を積み重ねたシート紙の一番上あるいは一番下に置くことを繰り返し行うことは、いずれも必要に応じて選択される慣用技術であり、積み重ねられた原稿の一番下のものから給紙装置により順次取り出せる上方開放型の原稿貯容台は周知であるとする。

よつて検討するに、成立に争いのない乙第一号証の一、二、第二号証によれば、実開昭五一―六六四四五号公開実用新案公報、同公報にかかる実用新案登録願願書に添付の明細書及び図面並びに昭五一―一四三八〇号特許出願公告公報には、積み重ねられたシート原稿の下方のものから取り出せる上方開放型の原稿貯容台により、積み重ねられたシート原稿の一番下から取り出したシート原稿を露光した後、右積み重ねられたシート原稿の一番上に置くことをくり返し行うことが記載されていることが認められるから、審決が認定するごとく、積み重ねられたシート紙の一番下あるいは一番上から取り出したシート紙を積み重ねられたシート紙の一番上あるいは一番下に置くことをくり返し行うことは慣用技術であり、積み重ねられたシート原稿の下方のものから取り出せる上方開放型の原稿貯容台は周知であると認められる。しかしながら、右乙号各証には、積み重ねられたシート原稿を下方のものから取り出して露光し、該シート原稿を反転した後、前記積み重ねられたシート原稿の上に置くことを繰り返し行うことについての記載があることは認められないし、他にこのことが慣用技術であることを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、前記慣用技術と前記周知技術を組み合わせてみても、本願発明の積み重ねられたシート原稿の一番下から取り出して露光した後、該シート原稿を反転させ、前記積み重ねられたシート原稿の上に置くことまで予測できるものではないし、本願発明の作用効果を期待することはできない。

また、引用発明に前記慣用技術と前記周知技術を組み合わせてみても、引用例の「スイツチバツク路」は、シート原稿を積み重ねる部所ではなく、シート原稿を単に方向転換させるための部所であつて、引用例には積層されたシート原稿の一方の面を全て露光した後他方の面を順次露光するまでの間シート原稿を積み重ねておくという技術思想はないから、スイツチバツク路を前記周知技術の上方開放型の原稿貯容台と置き換えることが、当業者において容易にできるものでもなく、仮に、置き換えることができたとしても、積み重ねられたシート原稿の一番下から取り出して露光した後、該シート原稿を反転させ、前記積み重ねられたシート原稿の上に置くこと及びそれによつて奏される本願発明の前記作用効果まで予測できるものではない。

したがつて、審決が、「周知の原稿貯容台における原稿シートの積み重ね技術として、積み重ねた両面に画像を有するシート紙の取り扱い上の慣用技術の一方を採用したに止まる相違点(一)に係る本願発明の構成は当業者が格別困難なくなしえたものと認める。」としたことは、誤りであるといわなければならない。

(五) 以上によれば、審決は、本願発明が引用例に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明することができたものであると誤つて判断したものであり、違法であるから、取消しを免れない。

三 よつて、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるのでこれを認容する。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

露光部の一方の側にあつて両面に画像を有するシート原稿を積層貯容する上方開放型の原稿貯容台と、

上記原稿貯容台に貯容されたシート原稿を、同原稿貯容台の底部のものから一枚ずつ上記露光部へ送出する給紙装置と、

上記露光部の一方の側に送られたシート原稿を上記露光部を通過させた後、一度表裏反転させて上記原稿貯容台の上部へ、シート原稿の先端から排出するようにした搬送装置とを備え、

上記給紙装置は、シート原稿の一方の面を全て上記露光部に向けて送出した後、連続して上記原稿貯容台へ排出されたシート原稿の他方の面の全てを上記露光部に向けて送出することを特徴とする複写機における原稿自動送り装置。

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